時計界における「薄さ」の追求は、もはやブルガリのOcto Finissimoシリーズによって、一つの神話と化しています。この11年間で10ものギネス世界記録を樹立した同シリーズは、単なる「薄さ」だけでなく、それを維持しつつ複雑機構を内蔵するという、物理法則に挑戦する存在です。
進化する「薄さ」の系譜
今回注目するのは、2022年の18Kローズゴールド版、2023年のチタン版に続く、2025年最新作「Octo Finissimo 8 Days Skeleton」(型番:104121)です。これはシリーズの集大成ともいえるモデルで、その特徴は「マットブラックDLCチタン」と「ローズゴールド」のコントラストにあります。
従来通りの40mm径、驚異の5.95mmという薄さはそのままに、ケースにはマットブラックのDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングが施されています。この加工により、Octoシリーズの特徴である110ものファセット(切面)が柔らかく溶け込み、視覚的な存在感がより深まり、神秘的な雰囲気を漂わせます。
建築美と機械美の調和
デザインは、古代ローマのマチェンツィオ浴場や万神殿から着想を得た「八角形」と「円形」の融合。これは極簡主義の現代美と古典建築の哲学が交差する、ブルガリならではのアイデンティティです。
文字盤には大胆なスケルトン(镂空)構造を採用。マットブラックのフレームに映える、ローズゴールドに仕上げられた指針やインデックスが、時を緻密に指示します。12時位置から2時位置にかけて広がる巨大なゼンマイ車(発条盒)は、8日間(192時間)もの長大な動力储存を支える証です。
3時位置には、ブルガリを象徴するフルスペルのロゴと、スポーティな「8 Days」の表記。7時から8時位置には、スモールセコンドと動力储存表示が配置され、放射状のデザインが文字盤全体に躍動感を与えています。
2.5mmの極薄手巻きキャリバー
その中核を担うのは、ブルガリが自社開発した手動巻きキャリバー「BVL 199 SK」です。その厚さは僅か2.5mm。この薄さを維持しつつ8日間の動力を実現するために、設計者は「二重ゼンマイ車(双发条盒)」ではなく、「単体大径ゼンマイ車(单发条盒)」を採用しました。
これにより、複数のゼンマイ車を連結する際のエネルギー損失を抑え、構造的にもより美しく、水平方向への広がりを重視したレイアウトを実現しています。
ニュアンスの評価
唯一の難点を挙げれば、暗所での視認性を高めるルミノバ(夜光涂层)が省略されている点、および防水性能が30mとドレスウォッチ寄りな点でしょうか。しかし、正装時計としての明確なポジショニングを考えれば、これらは許容範囲内の選択と言えるでしょう。
総括
黒と金の組み合わせは決して珍しくありませんが、それをここまでエレガントに昇華させた例は稀です。前作のチタン本来のグレー調よりも、今回のブラックエディションは格段に高級感(高级感)が増しており、視認性の良さも相まって、Octo Finissimoシリーズの中でも特に完成度の高い傑作と言えるでしょう。
